言葉の迷宮を制するのは私だ!
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『自由意思のある自鳴琴』
そこではいつもオルゴールの音が漂っていた。
哀しげな高音がゆっくりとしたテンポで流れる。
窓際に、ロウテーブルの上に、ドレッサーの上で整然と並べられた化粧品の隙間に、どこにでもオルゴールの居場所は用意されていた。
ここを訪れた大抵の者はその数にただ圧倒される。
そして、すごいですね、オルゴールが好きなんですね、と言った言葉をつぶやくなり、黙ってしまう。
あまりにも数の多いものに対する適切な言葉を見つけようとして失敗するのだ。
これを集めるのに全部でいくらかかったんですか、という無邪気かつ直球な質問をしたのは小学生の秋弘が初めてだった。
「でも思ったよりお金はかかってないの。趣味がオルゴール集めなんですって言っておけば、何かプレゼントをもらう機会があった時、必ずくれるようになるのよ。いつの間にか自分で集めなくても、勝手に集まってくるようになったわ」
そう言って彼女は上品に笑った。彼女は実に上品に笑う。嬉しいから笑うとか可笑しいから笑うとかいう感情がどこにもにじみ出ていない。
単に笑顔の形に合わせて目元と口元の筋肉を操作しているだけに見える。
しかし、この精巧な人形に見紛う笑みは「上品な」と形容するのがよく似合う。
「この中のどれが一番好き?」
秋弘の素朴な質問に、彼女はそうねえ、とつぶやきながら周りを見渡す。どこに視線を走らせても、必ず視界のどこかにオルゴールが存在した。
なかなか答えが出ないので、秋弘は聞き方を変えてみた。
「じゃあ、もしここが火事になった時、一つだけしか持ち出せないとしたらさ、どれを持っていきますか?」
火事? と、突飛なシチュエーションに呆れたのか彼女は少しだけ目を細める。
「そう、一個だけ持っていくギリギリの余裕があるとして」
「それなら迷うまでもないわね」
さっきまで散々迷っていた割にはずいぶんあっさりと言いのけた。
彼女のローズレッドに彩られた指先がその持っていくつもりのオルゴールに向けられるのをじっと待つ。
しかし、彼女の手は動かない。視線も秋弘を捕らえたままだ。
「全部おいていくわ」
「え、と。全部、ですか?」
まったく予想していなかった回答に少しだけ戸惑う。
「残らず燃えてしまえばいい、そう思うのよ」
相変わらず上品な笑みを口元にはりつけたまま言った。
そして一番手近にあったオルゴールを引き寄せると、そっと優美な手つきでゼンマイをまわした。
もしかして初、ですかね。ブログに小説の断片を載せてみました。
意味深なようで、まるで意味をなさないような、そんな小説を書くのが好きだったりします。
以前から小説と関係ない記事ばかり書いていたのでたまには、こういうのもいいかな、と思いまして。
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